恐らく、でも、皆様が思うよりも、もっと限定的な方法でしょう。
ブロックチェーン(分散型台帳技術またはDLT)は、医療を変革する次世代の技術としてもてはやされています。ブロックチェーンは、相互運用性から保険処理にいたるまで、すべてに対する解として紹介されてきました。
私はプロダクトマネージメント組織に数年おり、そのゴールはよい商用ソリューションを市場に投入することですが、多くの初期のブロックチェーンに関する評判には懐疑的です。「ブロックチェーンは解である、何が疑問か?」ブロックチェーンが提案する多くの使用ケースでの、高い可能性があるという態度では、解決できると言っている問題を解決することは難しいと思います。
私は、こうした言葉を19カ月前に書きました。そして、2019年5月現在、2017年11月に持っていた疑問に終止符を打つことに、全く近づいていないことに気づきます。
Ventroc の 最近の調査では、「AIは、徐々にその存在場所を見つけつつありますが、一方ブロックチェーンはその他のセグメント同様、医療においては苦心をしている。」「医療における一般的な革新のスピードにおいて、ブロックチェーンは、決して進んでいない・・・」この調査によると、75%が医療におけるブロックチェーンの役割を見出すのに苦労をしており、18%が患者の利益になるブロックチェーンの使い方が分かったと言っています。残りの7%は、いまだ「ブロックチェーンとは何か」と質問しています。
さらに、暗号通過に関わるニュース、ブロックチェーンユースケースの黄金律は、長い間非常にネガティブなものでした。暗号通過市場で今直面している問題は、差し迫って利用するような技術ではなく、むしろ技術そのものに対する私たちの理解の基盤が間違っていると分かったことです。国際コンピュータ科学研究所 (ICSI) およびカリフォルニア大学バークレー校の研究者である ニコラス・ウェーバー(Nicholas Weaver)氏は、最近の議論をこのように表現しています: 暗号通過:炎に焼かれている「”ブロックチェーンがXを解決する“と言ったすべての者にとって、解決した唯一のことは、Xのことを何もわかっていない人をようやく理解したということだ」
記録を保持する新しい方法として使われると想定される「許可型」および「プライベート」ブロックチェーンへの新たな興味は、ウェーバによると、これまでの方法の焼直しに過ぎず、こうしたチェーンは、ハッシュチェーンという形で何十年も存在しており、これによって利益を得るあらゆるものに使われてきています。
さらに悪いことには、パブリックブロックチェーンは、恐ろしく無駄で非効率であるとウェーバは述べています。結果、ビットコインやその他の暗号通貨は、ウェーバがいうところの「品位のないリソースの塊」といったゴミになっています。10の信頼できる実体を指定した中央当局は、10個のラズベリーパイを使って、消費電力が白熱灯よりも少なく、同様のブロックチェーンを生成できました。
ウェーバはこう述べています。結局、暗号通貨が有用なものは、ランサムと不正取引の支払いだけである。
それでは、ソリューションとしてブロックチェーンが提案されてきた主要な分野のいくつかを再度確認し、18カ月前と比べて、私の2019年の可能性についての見解がどうなのかを見みましょう。客観的に分析してみたいと思います。
実際に患者記録に関連するユースケース
ブロックチェーンは、本来的に、真に分散された台帳です。財務アプリケーションには適しています。なぜなら、財務的トランザクションのほとんどは、ルネッサンス以来使っている非常にシンプルなアカウンティングの原則に沿っているからです。精密医療の全体概念は、広範で豊富なデータソースから真のすべての患者記録を作り上げることですが、これはまったくスタートできていません。
例として、2008年に始まったビットコインブロックチェーンは、 156.41GBで、9年間のすべての履歴データが含まれます( アンドレアのブログによる)。共通ストレージインテンシブ医療データに必要な一般的なデータストレージを考えた時、目の前の課題が見えてきます。
- X線 = 30 MB
- マンモグラフィー= 120 MB
- 3D MRI = 150 MB
- 3D CT スキャン = 1 GB
- デジタルパソロジ―画像= 350 MB (平均)
- 100 GB 10億回の読み込み – 一般的な人のゲノム
- 各ゲノムの異なるファイルに対し 1 GB
私たちは、毎年ペタバイトの医療データを生み出していて、指数関数的に増加しています。ブロックチェーン技術は、設計上分散されており、ストレージには限りがあります。よって、小さなデータあるいはメタデータが好ましいものとなります。
「クラウド」が他者のコンピュータを意味し、「AI」がひねられたアルゴリズムを意味するように、「ブロックチェーン」は、 こうした意味では、遅く高価なデータベースであると言えます。
オーバーヘッド、開発の遅延、ユーザインセンティブの問題、スケーリングの課題などがあり、診療記録ほど複雑なものは全くない訳で、大きなデータ塊を保存するために、人はブロックチェーンを使い始めたがりません。
ブロックチェーンは、医療データの保存のソリューションではなく、分析といった主要分野の実際の支援には制限があります。
相互運用性と情報交換の置き換え
ブロックチェーンには、長期に渡って複数のデータソースから、入院、外来、ウェアラブル機器などからデータを引き出して、患者データの分散長期ビューの生成に使える可能性があるという誇大妄想が多く存在します。
ブロックチェーンの相互運用性、セキュリティの可能性、もちろん分散特性は、継続した診療を通して多くの医師が利用可能なフォーマットで、組織を横断して安全にデータを交換することができる長期医療記録の「聖杯」の作成を可能しました。
「ブロックチェーンは、中間作業を効率的に排除し、概念図的には、中心になれずにいる医療情報交換を持たずにすむ可能性がある」とKPMGの医療技術リーダである
ヴィンス・ヴィッカーズ氏は述べています。「いくつかの州では、大きなよい努力がなされており、HIEが上手くいっているところもあります。しかし、金融サービス市場と比べてみると、金融サービスでは、ATMがあって、世界中どこにいようと関係なくお金を引き出せます。しかし、患者データとなると、明らかに、こうした意味では非常に制限されています。
こうした考え方は、医療の相互運用性の基本的な課題の認識が誤っていると思います。医療データを意味ある形で交換することは、セマンティック的な相互運用性を意味し、これは、診療データ、オミックス、会計、IoHT、社会的データからなる長期患者記録と同様に非常に複雑なもので、大きなチャレンジとなっています。多様な形式や標準、さらに非構造化データとして保存されている大量の情報は、この大きな情報量という課題を、ATMネットワークよりもさらに複雑にしています。
金融のトランザクションに使われているISO8583取引標準は、医療情報交換に比べると子供の遊びです。近代のATMネットワークは40年を費やし、取引関係者間での真剣な協力によって今日のようになっています。いまだに銀行間ネットワークは多く存在し、バックグラウンドでHIEのような交換を運用しています。ここには、取引当たり3ドルという問題が存在しますが、もし医療でもこのビジネスモデルを運用するとすると、相互運用はすぐに解決されるかもしれませんが、もう1つ寄稿すべき話題があります。
多くのHIEは、既にデータ交換を統合しており、中央で情報を集約していませんが、ネットワークを横断して、データがどこに保存されているのかというレジストリとしてのHIE機能を持たせています。よく聞きなれています。これは、ブロック、すなわち分散レジストリです。それでは、ブロックチェーンは情報交換レジストリの運用面を改善できたのでしょうか。可能性はあります。しかし、真の処理ニーズに応えるには劇的に進化する必要があるでしょう。相互運用性の確かな要素を確認する全体としてのプロセスの一部として、ブロックチェーン技術を活用する余地は確かにあり得ます。しかし、これは主要な破壊者(ディスラプタ)とはならないでしょう。ブロックチェーンは、魔法のように相互運用性を置き換えたり改善するものではありません。
これに対する「キラー」ユースケースとして機能するもう1つの要素は、多くの分散HIEは、中央集約に移行し集団の健康と分析を支援しようとしている事です。分散データは分析には信じられないほど困難で、DTLの使用は、一般的には資金難なHIEイニチアチブの課題を解決するには高価な方法です。
集団健康管理への取組
ブロックチェーンの医療での適用で、よく言及されているもう1つの分野は、集団健康管理です。医療情報交換やその他のデータ集約方法に依存するのではなく、組織は、仲介者をなくして、分散した記録から大規模な集団レベルでの患者情報にアクセスすることができます。「時間とリソースを使ってメンバーの信頼性を検証すること(例えば、HIE、すべての保険請求データベース、ローカルなEMRなど)では、理解できるビジネスセンスを創造することはできません。ブロックチェーンは、信頼性を提供することで集団健康を躍進させるでしょう。ここでは、診療および財務的なアウトカムの情報へ直接リンクすることで患者データへの継続的なアクセスが誰もできていない。」と CIOはレポートしています。
上記のとおり、これは、1年半前の実現テストにパスしていません。そして、現在も。ドキュメント、非構造化データ、多様な型をもつ分散ネットワークを横断してのデータ分析は、データサイエンティストにとっては悪夢です。組織内にある多くのデータレイクも同様に悩ましい問題です。それらは、掌握されていないデータの集まりで、質の高い分析に使うのは、ほぼ不可能です。ブロックチェーンというコンピュータ的なオーバーヘッドを、既にやっかいで困難な分析に加えることは、全くもって解決にはなりません。
医療での正確な分析という重要なニーズを鑑みると、ブロックチェーンが創出する夢のような未来という考えは、遥か彼方の事のように思えます。
売上サイクル、請求審査、事前認証
ブロックチェーンが、保険業界での不適正な請求や払い戻しを最小化する、請求審査と請求管理を必ず改善すると多くの人が提案してきました。こうした考えは、ブロックチェーンが医療費請求と払い戻しシステムの全参加者が、リアルタイムに患者の請求処理を確認して、請求処理における払い戻しの時間短縮と透明性を改善し、さらに、改善された透明性によって、今後の認証、照会、ダイナミック自主的請求審査を自動化すると言います。これに対し私は、また、非常に懐疑的です。果たして、ブロックチェーンが請求審査をどのように改善するのでものしょうか。しかし、大手の関係者は、少なくとも ブロックチェーンという選択肢を検討しています。
私が見た課題は、請求と事前認証処理は単純な「契約」ではないという事です。請求処理は何百、何千ものロジックルールの組合せです。これはトランザクションではありません。しかし、審査は複雑なのです。事前認証は、複雑な医療書類と事前に決められた承認ルールとを照合する必要があります。複雑なトランザクションは、ブロックチェーンが特に得意な分野ではなく、DLTの推進者でさえ「スマート契約」を口にします。この概念には大きな制限があるように思います。
こうした請求処理と審査ビジネスは、すでに高度に自動化され効率化されています。請求は基本的には既にリアルタイムです。事実、請求は、医療機関で高いHPRR (First Pass Resolution Rate)基準を満たすよう事前に編集されます。FPRRは、すでに殆どのケースで90%以上になっています。財務手形交換処理のコストは驚くほど低く、ゆえに、ブロックチェーンのコンピュータ処理コストを、既に効率的な中央認可モデルに加える理由があるでしょうか。恐らくそんなことはないと思います。ヘルスケア改革(Change Healthcare)といった組織などによるブロックチェーンに関する殆どの取り組みは、彼らの独立したIPOにより関係するもので、安定しているが、ビジネスモデルを基盤とした中央認証モデルに話題の技術を乗せようとしいているだけです。
では、組織は、ブロックチェーンを取り入れるようシステムのリライトに投資をしたいでしょか。もしかすると、そうかもしれません。しかし、投資は、すでに細かい費用までカウントする医療分野においては、重要で挑戦的なことしょう。
サプライチェーン改善と起源
医療供給物の正確性を追跡するのは難しいことです。サプライチェーンがグローバルに拡大している場合は特に難しくなります。ブロックチェーンは、医薬品の正しい流通、すなわち偽造の制御や拡大の課題に対処できると考えられてきました。以前、IBM/Hyperledgerの中国における食品の安全性への取り組みが、医療アプリケーションや医薬品のサプライチェーンに適用されいくと期待されています。
これはブロックチェーンのスラムダンクとして、私に疑問を与えています。
ブロックチェーンのユースケースは、中央裁量を分散しようとする時にベストなものだと言われています。
ブロックチェーンシステムは、魔法のように人の行動を変えませんし、自動的にデータの完全性を創るものでもありません。入力が改ざんされたかどうかを監査することはほぼしません。偽造医薬品を出荷する者は、ブロックチェーンシステムに入る事ができ、薬が本物で、偽造者は、合法医薬品を非合法な場所に出荷することができるのです。
サプライチェーン報告書は、既に問題です。多くはないですが McKesson、Cardinal、Amerisource などのプレイヤーがある医療の大部分では、細かいサプライチェーンデータを有しており、大きな問題を抱えています。その殆どが、雑多なインセンティブと不当な行為によるものです。
ほんの2年前、大手製薬会社McKesson社は、約5百万の痛み止めを、住民400人のサザンウエストバージニア町の1つの薬局に出荷しました。
Cardinal Health は、マウントゲイの Family Discount Pharmacyに 6千5百万回分のハイドロコドン(Lertab や Vicodin などのブランドで販売)とオキシコドン(OxyCotin として販売)を2008年から20012年の間に出荷しています。これは、田舎町ローガンカウンティの1つの薬局で、3,561回分の痛み止めを扱うことに相当します。
取引が最初から不当だった場合、ブロックチェーンは問題を解決するでしょうか。
間違いないと思うところ
医療でのブロックチェーンの可能性に対する私の疑念は、以前と同様強いものです。これは、依然として目的を探索している技術のように思えます。私は、ブロックチェーンは、DTLのユースケースが基本的に保証されている4つの分野での新規機会を支援する可能性があると思います。
患者データ管理
患者特定管理は、医療システムにおいて依然として、課題であり続けています。全国患者IDを作っている国でさえも、患者特定のソフトウェアは、未だにしばしば記録とのマッチングが必要です。これはまた課題であり、この課題は、中央当局のレンズを通して見た場合、間違いであり続け、さらにより低コストで簡単になる可能性があります。消費者クレジットレポーティング機関は、一意に人の特定をする仕組みの確立と、価値ある患者特定データの補助の両方において、酷い仕事をしました。ユニークなボトムアップの識別子を創り、異なる臨床記録を共通IDサービスに組み入れる機能は、医療および複数の業界にとって真の利益となり得ます。これはまた、実際に、患者にとって、記録の維持管理業務を行う強いインセンティブです。
医師の認証(資格証明)
患者IDのように、各ヘルスプランおよび政府機関による医師のディレクトリの管理は、報いのないリソースインテンシブな業務です。今日、1000以上の保険会社が米国にあり、加盟する医師の1つの正確なディレクトリを作成する努力をしていますが、医師のデータ更新が負担となっています。あるいは、少なくとも医師にデータの検証を依頼するなどを行っています。許可されたブロックチェーン上に医師の属性情報を置く事は、よい事です。保険組織で分かるように、古いやり方が上手く行かないのは明らかで、医師データは綺麗なものではありません。彼らの業界の患者のように、許可されたブロックチェーン上に1つの精選された記録をもつオプションがあれば、データのメンテや検証に医師もまた動機づけられます。
事実、United Healthcare, Optum, Humana, Quest Diagnostics, MultiPlan などは、Synaptic Health Alliance を立ち上げ、DLTを利用して医師のディレクトリの正確性向上を、正に行っています。最近、Aetna と Ascension Health もこのコンソーシアムに参加しています。
同意管理
拡大しつづける臨床データレポジトリにあるデータのマイニング機能を解放することは、精密医療の概念にとって重要です。適正なデータアクセスを確保することは、同意管理の課題を解決することを意味します。今日、患者同意は多くの場所に保存さています。電子医療記録システム、病院医療記録部門、EDCシステム、さらにファックスの受信文書の山の中などです。
プロセスは、エラー、プロトコル変更による困難、再同意の失敗、非承認書類の使用、子供の同意の変更、その他複雑な事項によって混迷しています。DLTは、データ交換に対する患者同意、プライバシー意向、さらにブロックチェーンの扱いなどを可能にすることができるでしょう。そして、全ての関係者がアクセスでき、情報共有を簡単にすることが可能です。
このところの同意プロセスで患者に与えられているコントロールの高いレベルは、また、患者と研究者の強いネットワークをサポートしており、興味深い適切なデータの近代化の可能性のいくつかを解放することができます。
データの近代化
医療・健康データは価値のあるものです。大手製薬会社は、研究に毎年数億ドルを使い、その多くを無駄にしています。インテリジェンスとターゲットをさらに加速する研究はデータが必要です。しかし、今日行われている面倒な同意プロセスは、革新の機会を損ねています。医療システムあるいは患者が、全ての開示や同意なしにデータを再販することは、問題があると証明されています。
同意管理をもつブロックチェーン技術は、人々がデータの提供で貢献し、データが使用される度に支払いを受けることのできるデータ市場を可能にするでしょうか。これができると臨床試験、公衆衛生、集団健康分析おける興味深い大きな可能性を創造します。地下鉄の臨床試験の募集広告を思い浮かべてください。今日効率の悪い方法にお金が費やされ、では、よりよいネズミ捕りの構築に、なぜブロックチェーンを使用しないのでしょうか。
医療におけるブロックチェーンの記述の私直近のレビューから、大きく変更はありません。しかし、業界は少なくとも、DLT が変えられる可能性のあるユースケースに小さな焦点を探し始めています。
ブロックチェーンは、全てを変え、医療の全ての側面を網羅する技術であることは継続するかもしれませんが、患者特定、医師の信頼性、同意管理のような主要データの精選の課題を、徐々に解決することができれば、医療での大きな進化を遂げられます。
そして、私が、10か月後に、この予言が熟成しているかどうかが分かるでしょう。いづれにしろ、私は、これを興味深く見て行きます。
追伸
下記ブロックチェーンプロジェクトの進行に興味をお持ちでしたら、Andrea Coravos の仲介による有用な
Github サイトがあります。この医療ブロックチェーンプロジェクトのグラフィックを含み、是非チェックしてみてください。
オリジナルは、2019年5月24日 Healthcare IT Today にて公開。
著者:Todd Winey
インターシステムズデータプラットフォームのパートナ・プログラムディレクタ担当。IT業界において、25年以上にわたり、プロダクト管理、ビジネスデベロップメント、パートナ・リレーションの経験をもつ。