広島赤十字・原爆病院
事務部 経営企画課
情報システム係長 島川 龍載
近年、「チーム医療」において、患者中心の医療を実現するために、医療従事者が互いに情報をフィードバックしながら、治療やケアを実践することが求められており、特にコ・メディカルの活躍が期待されている。
これらの連携には、電子カルテを中心とした情報システムの活用が有用とされてきたが、診療録の電子化を中心に拡張されてきたシステムは、患者毎のカルテ画面を開くなど、基本的に自ら開いて見に行かなければ情報を得ることができない仕組みとなっている。これは、情報を自ら引き出すという意味で「PULL型」のシステムといえる。
しかしながら、様々な国の制度改革が進むにつれて、病院経営や医療の質や安全性の向上のための仕組みづくりが否応無しにも発展し続けていかなければならない現状にあり、管理体制の強化において、多忙な業務負担が増えており、組織的な働き方改革が求められていることは言うまでもない。こうした多忙を極める現状において、依頼医による画像診断報告書や病理診断報告書の見落としが相次いで発生するなど、いかに重要な「気づき」を見落とさずに伝達するかといった視点で、アラート通知などを利用した重要情報を認識させるための手段が必要とされはじめてきた。これらのことは、これまで「PULL型」で進んできたシステムの仕組みから、「気づき」を与えるための「PUSH型」の機能が必要とされる時代になったと言える。
このような状況において、本院では、2015年度の新棟建築に合わせて更新した医療情報システムにおいて、SOA(Service Oriented Architecture)の考えを取り入れた情報連携基盤を構築し、アラート通知機能を段階的に充実させるアプローチを行ってきている。先述した画像診断報告書や病理診断報告書の作成通知をはじめ、入院診療計画書や退院時総括、診断書、返書の未作成通知など、文書作成補助の機能なども合わせて取り組んできた。また、免疫抑制剤や化学療法剤により発症するB型肝炎対策にもアラート通知を応用している。これらは、いずれも医師宛の通知であり、医師をサポートするための機能として活用してきた。
一方で、「チーム医療」においては、コ・メディカルなどを含めた多職種連携が必然となっており、医師の指示に基づいた治療やケアを実践する過程において、患者のスクリーニングを行い、リスクのある患者をいかに早くフォローアップするかが重要となる。現在では入退院支援として、入院から退院まで切れ目のないケアに多職種が介入する取り組みにまで発展している。これらの機能を電子カルテの機能や部門システムにて業務支援を補填していたが、「PULL型」で構築された仕組みでは、その作業プロセスに多くの労力がかかり、業務の効率化に寄与するとは言えない現状があった。
そこで、本院では、機器のライフサイクルから更新を控えていたNST部門システムについて、アラート通知機能に切り替えることを医療情報部門から栄養管理部門に提案し、アラート機能の拡張を行った。実際には、業務ルールを明確にし、汎用的な通知機能にそのルールのみを新たに追加することで対応できるものであった。
主な機能としては、栄養管理計画書の未作成と栄養状態でリスクの高い患者と低い患者を医師や看護師が入力した栄養管理計画の入力内容から判断し、管理栄養士に通知する仕組みをSOA情報連携基盤において、実装している。
実際の成果としては、これまでも部門システムで行ってきたが、業務の迅速性と効率性の向上に大きく貢献している。2018年4月の機能リリース以降、大きな問題もなく稼動しており、栄養管理部門からも高評価を得た結果となった。
ここで、特に意識したいことが、システム導入の投資対効果をどのように考えるかということである。本来は、定量評価し、その有用性を明らかにすることに意義があるが、全ての取り組みに対して、評価することは困難であると言える。また、今回のように既に労力をかけて実施してきたことを、代替する仕組みの導入は、なおさら評価することが難しい。ただし、今回は、経営的側面で考えた場合、1つの部門システムを削減できたことで、更新にかかる初期費用や保守費用に対する削減効果は大きいと言える。今後は、医療安全のインシデントの発生状況やプロセスの手順の可視化、さらには、未読・既読による実際の活用状況などから、継続的に評価していくことが必要となる。
SOAによる情報連携基盤にて、汎用的なプラットフォームを活用することで、多くの取り組みの効果を得ることができたと言えるのは、客観的な評価ができてこそ意義のあるものであり、持続性のある仕組みを構築することが、これからも課題になる。
現在の情報システムの取り組みは、いかに情報連携の密度を高めて、有用性を見出すかという点で、「コンテンツ」としての機能拡張が多い。しかし、本来は、業務の流れを意識した「コンテキスト」による一連のサービスとしての統合の取り組みが望ましい。これらは、地域包括ケアシステムから学ぶように、自然とつながり、お互いを巻き込み、人が支えあうために情報システムが寄与することで、よりよい治療やケアを目指した先にある患者のための病院づくりに繋がるものと信じている。
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7月11日(火)~13日(木)に東京ビッグサイトで開催された「国際モダンホスピタルショウ」にて、広島赤十字・原爆病院様より、このブログ記事でご紹介いただいたアラート通知のお取組みについて、ご講演をいただきました。
そのご講演資料が
こちらからダウンロードいただけます(PDF)。ぜひお読みください。
「国際モダンホスピタルショウ2018」セミナー開催概要
日時:2018年7月12日(木)15:15-16:00
会場:東京ビッグサイト 会議棟605、606
ご講演タイトル
「医療情報統合基盤の活用による医療の質向上と業務効率化のためのアラート通知の取り組み」
広島赤十字・原爆病院 事務部 経営企画課 情報システム係長 島川 龍載 様
概要
チーム医療の推進や医療安全への対応など、医療従事者の運用や環境の変化への対応が必要とされる中で、システム的なサポートによって、いかに「人」に気づきを与えることができるか、最新事例をご紹介します。