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病院DXへの第一歩

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
マネジャー 古道 義隆 (医療情報技師)

 
「医療業界のIT化は、他業界に数年遅れで進む」などと言われることがありますが、そのような医療業界においてもさほど他業界から遅れることなく、DXの推進に取り組む医療機関が増えていると感じます。これは、デジタル活用に対する医療機関の期待の表れである一方、今後も健全な病院経営を行うに当たり、これまでとは次元の異なるデジタルの活用方法を考えなければならないという、経営層の強い危機感の表れなのかもしれません。

歴史的に医療機関のデジタル化は、検査部門や医事部門など、各部門の業務効率化の目的で進んできました。やがて電子カルテが世間に広まり始め、今では400床以上の医療機関における普及率は85%を超えると共に(※)、病院情報システムは電子カルテを中心に各部門システム群が有機的に連携したもの、という構成が一般的なものとして認知されています。
※厚生労働省 医療施設調査(平成29年)より

このような歴史的背景から、最近まで医療機関において、「各部門の情報は各部門で保持している」という状況はごく一般的なものでした。中長期的なデータ活用を考慮し、各部門システム間でデータの粒度を合わせた一つの統合的なデータベースを作成する、という考え方をもって取り組んでいた医療機関は少数派であり、あくまで各システム間では、「業務上で必要となる、最低限の情報連携を行う」ことが、医療機関側でも、システムベンダーでも当たり前、と見做されていました。

ましてや自院外のデータ活用など、このように情報が分散配置され、有効に活用できない状況ではどのような問題が発生し得るでしょうか。院外処方における疑義照会を一例に考えてみます。

院外薬局で調剤を行う際に発生した疑義に対して、薬剤師が処方医へ疑義照会という形で問合せを行い、必要に応じて薬局にて処方箋の内容を変更して調剤する、という形で対応が行われます。また、その変更の記録は調剤済み処方箋や調剤録に残されると共に、薬局と医療機関の間での取り決めに則り、薬剤師から処方医への報告書という形で共有されることもあります。

さて、処方医はこの報告書を受けて、次回以降に同様の疑義が発生する処方を回避することができるでしょうか。一日に数十人もの患者を診察する多忙な医師が、報告書の内容を逐一把握し処方内容の是正に繋げることは、現実的には困難なように思います。ましてや、報告書の形で変更記録が伝達されないケースもあります。疑義照会という業務に纏わる情報が活用されずに同様の疑義照会を繰り返し、医師の業務改善の妨げになる結果とはならないでしょうか。

疑義照会に纏わる情報が処方医の下に繋がり、収集され、同様の誤りの予兆を検知したら処方医に注意を促す。既存の情報を活用した単純な仕組みですが、疑義照会の発生を未然に防ぎ、医師の貴重な時間を守る上では有効なものになると考えます。そして、このように小さいながらも効果的な取組を積み重ねる試みが、今後の医療機関のDX推進において求められるものではないか、と私は考えます。

小さな試みの実践、それに伴う課題の改善、そして再試行、この繰り返しがDXの基本的な推進方法です。そして、このようなTry&Errorをスピード重視で進めるためには、データが分散配置された既存の病院情報システムの構成では困難を伴います。必要に応じて様々な仕組みを繋ぎ、存在する情報を収集し、適切なタイミング・条件下で活用可能なデータ活用プラットフォームが新たに必要になります。

 

「InterSystems 医療×ITセミナー第1回」ご発表スライドより

 
私たち デロイト トーマツ ヘルスケアの病院情報システム導入支援サービスでは、かねてから従来型のパッケージシステム導入のみを目的としたものではなく、職員間のコミュニケーション改善、データ利活用、或いは人材育成等を通じて、医療従事者がより良く働ける環境の整備を目指してきました。医療機関のDX推進に取組む必要がある昨今、インフラとしてデータ活用プラットフォームたり得るInterSystems IRIS for Health™のような仕組みを用いつつ、この仕組みの活用に資する人材の確保・育成、或いは業務や組織のあり方検討など、インフラ整備に留まらない、医療機関向けの総合的なアドバイザリーサービスを以て、各医療機関の課題解決に取組んでいきたいと考えます。

※デロイト トーマツ ヘルスケアのサービスに関しては こちらを参照ください

※本稿における意見にわたる部分は、寄稿者の個人的見解であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではありません

 


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