神奈川県立こども医療センター 新生児科 豊島勝昭 盛一享徳 野口聡子 友滝寛子 星野陸夫 猪谷泰史
少子化が進む本邦において、低出生体重児は増加しています。2500g 未満の低出生体重児の割合は1割を越え、1500g未満出生の極低出生体重児は出生全体の1%を占めるようになりました。
日本の新生児医療の救命率の高さは世界有数です。1500g 未満で生まれた赤ちゃんたちの救命率は 95% 近くに上昇して、重篤な合併症とされてきた脳性麻痺は約5%に減少しました。しかし、救命される極低出生体重児の増加につれて、新たな課題が明らかになりつつあります。
極低出生体重児の約3分の1にいわゆる<発達障害>と呼ばれる発達の差異があることが明らかになりつつあります。また、将来のメタボリックシンドロームの発症リスクが高いことも明らかになりつつあります。極低出生体重児は<慢性的な疾患>としての生涯に渡る見守りが必要と考えています。
NICU退院児の心身の成長・発達を見守るフォローアップ外来を担当していると、<障害感>とは病気や後遺症といった医学的な<重症度>とは必ずしも一致しないことを実感します。NICU退院家族が感じる<障害>とは、医学的な課題ではなく<社会の中での生きづらさ>であると感じています。
当院の極低出生体重児家族に<NICU退院後の困難感>についてアンケート調査したところ、39% が子どもの医療履歴や状況の説明に困難感を抱いていました。18% が健常児の母子手帳や健康・育児情報があてはまらない極低出生体重児特有の育児情報の入手に困難を感じていました。
赤ちゃんが NICU を退院した後、多くの場合は地域の病院・医院や在宅療養の医療者の支援が必要となります。また、極低出生体重児の生活の場は、成長と共に、自宅、療育(治療的教育)、保育園・幼稚園、そして学校と変わっていき、医療施設から徐々に遠ざかっていき、各場所において支援者との関係構築が必要となります。
身体障害がなくとも、発達に個別性がある極低出生体重児の育児や地域生活において、<障害感>を感じている家族が多いと考えています。NICU 退院児と家族の支援体制の質向上に、家族間、地域の医療、保健、保育、福祉、療育そして教育と様々な支援者との情報共有が重要となります。
近年、発達障害児に生じやすいとされる不安障害、躁うつ、うつ病、パーソナリティ障害や愛着障害といった二次障害を予防する要因として養育レジリエンスが注目されています。
[①こどもの特性の理解し、②肯定的・前向きに育児し、③社会的支援の理解と活用ができる] という育児3要素からなる家族の養育レジリエンスの向上は、発達障害児の二次障害の予防につながる可能性が期待されています。発達障害のリスクを持つ極低出生体重児において、家族の養育レジリエンスの向上を支援するために 情報通信技術(ICT)を利用しようとしています。
我々は、ブログ「 がんばれ小さき生命たち」を運営してきました。ICT を活用しての NICU の入院中・退院後の子供達の成長や家族の生活の支援などの可視化に努めてきました。極低出生体重児家族と医療者で協働の情報発信が、<障害感の緩和>や<多職種連携>につながっているという反響は少なからずあり、周産期医療ドラマ「コウノドリ」の製作協力につながりました。新生児医療の現状と課題を共有するプラットフォームの1つになったと考えております。
この経験を基に、病院間連携や医療・保健・福祉・教育連携などに活用できるホームページと個別性を補完する NICU 電子退院手帳をあわせたNICU 電子育児応援ナビゲーションシステムの構築を目指しています。
極低出生体重児のフォローアップに関わる小児医療・保健・福祉・教育に関わる多職種で NICU 電子退院手帳の原案を策定しました。
この NICU 電子退院手帳の原案に関して、極低出生体重児家族(90名)にアンケート調査したところ、79% が NICU 電子退院手帳を要望する結果でした。この要望を受けて、NICU 電子育児応援ナビゲーションシステムの構築を神奈川県、横浜市、日本医療研究開発機構( AMED )などからの研究助成を受けつつ、インターシステムズジャパン株式会社に御協力頂き、システムの実現化を目指しています。
育児や地域生活で必要となる電子カルテ情報を周産期センターと患者家族で情報共有した上で、成長段階にあわせて関係構築が必要となる支援者との状況説明や情報共有に活用してもらうことを目指しています。
NICU 電子育児応援ナビゲーションシステムが<障害感の緩和>や<養育レジリエンスの向上>に寄与するかを臨床研究にて検証する予定です。0歳から始めるマイカルテ計画は極低出生体重児のみならず、多くの小児疾患児、ひいては健康新生児の心身の健康を支援する医療・保健・療育・福祉・教育を包括するICTプラットフォームにつながると考えます。
子供達に自身の医療情報のライフログをいつか還元して自身の健康情報の管理につながればと考えております。
早産や病気があっても、こどもとその家族が生きづらさを感じることなく、笑顔で育てていける社会の実現を目指して、小児医療におけるICT 利活用をICTエンジニアと医療者で協働して構築していけたらと願っています。